歪曲館の殺人の始まり

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歪曲館の殺人の始まり

 絶海の孤島に建てられている一軒の館に、私を含めた七名が招集された。  館は敷地を囲む壁を含め、二百五十坪を誇る規模である。大型バスよりも背の高い自動式の門扉をくぐると、洋風の庭園が最初に顔を見せてくれる。  庭園を通過しこれまた大きな扉を開けると、館の中に入ることができる。  館の内装は、純白の外装と同じように清潔かつ高貴な装いとなっている。  白を貴重とした壁面や床面、天井。それを損なわないよう、シャンデリアはフロア全体を淡い橙色の、暖かな光が照らしている。最奥にはこれまた真っ白の階段がうかがえる。  さらに壁面には来客の寝室やキッチン、娯楽室、読書室、更衣室など、多数の部屋に続く廊下への入り口が二階も含め、十箇所もある。  招集されて三日経過した今では部屋をすべて回りきれたけれど、一日じゃあとてもじゃないけれど制覇はできない。 『純白館』と、名付けるならそうしたいけれど、しかしこの館の主である勾井夕雅美(まがいゆがみ)は私達を招集した際、館の名前をこう称した。 『歪曲館』――と。  歪曲館。  言われてみれば確かに、とその由縁を説明されて私は思った。  支柱や飾られている骨董品、階段の手摺りも蛇や波のように歪んで曲がっている。門扉から玄関まで延びていたガーデンロードも、一直線じゃなくてくねくねと曲がったものとなっていた。  庭園の装飾も、ツタのように植物の自然に発生するくねりを利用したつくりとなっているものばかりだ。  それだけじゃない。十箇所の廊下もまるで迷路のような構造になっていて、ひとつの入り口から入ると、他の九箇所の口から出てくることができるようになっている――それ以外にも多彩な仕掛けが施されているようだ。  歪曲館の建築家は、どうも建築物に秘密基地のような仕掛けを施すのが好きな変わり者だったようだ。  確か名前は氏のほうに『青』がついていたらしい。私が最初に浮かべた人物は私の好きな小説家の小説に出てくる建築家の名前で、彼は架空の人物であるため、歪曲館の建築家とその人とはまったくの別人なのだが。
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