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さて、私はそんな館のある仕掛けを解き明かした。
館の隠し部屋を発見したのである。
これは普通に生活していれば発見することはないだろう。メイドはおろか、家主の勾井氏もここの存在を知っているのかは怪しいところだった。
なぜなら、八畳半ほどの広さのこの部屋は、人が利用しているとは思えない有様だったからだ。
有様というとどうもゴミ屋敷というか、足の踏み場もないような想像を与えてしまうかもしれないけれど、しかし散らかった状況とはまるで真逆だった。
何もないのである。
ソファもベッドも、クローゼットもテレビもシャワールームもトイレも――何もかもないのだ。
ただひとつ、真っ黒な金庫があるだけで。
私の身長を超える金庫が、部屋の最奥で鎮座している。
何も捻じ曲がっていない――歪曲館とは別の館に侵入したようだった。
どちらかと言えば純白館の名が相応しい、そんな一室であった。
「もしかしてこの中に元家主の全財産があるのかもしれませんねえ」
と、その金庫を物色していた女性が私に向かい直して言う。
彼女の名前は早乙女八月。髪はボサボサでクマをつくり、不気味に笑う女性だ。
名前からは清潔さを感じさせるけれど、しかし彼女はそんな世界とは程遠い――芸術ともとれる歪曲館には似合わない性質を有しているのだ。
「隠し部屋を教えたでしょう。だから……」
「ああ、少し待ってください。今写真を撮りますからあ」
言って、彼女は肩に提げていた一眼レフのシャッターを切り始めた。
連写だ。
カシャカシャ。
響き渡るその音がこの部屋の物寂しさを物語っている。
記者としての血が滾っているんだろうか。
やがて、早乙女は一眼レフを下げて視線を私に戻した。相変わらず陰っぽくて湿っぽい眼――同業者からも嫌われるわけだ。
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