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ワンルームというのはこんなにも孤独を感じるものなのだろうか。
今まで一人で生活などしたことがないのだから当然かもしれないが、静寂にも静寂の音が聞こえる気がする。
みそ汁やトーストの香りで目が覚めていたことも、ダイニングテーブルに座れば出てきた香り高いコーヒーも、まるで幻であったかのようだ。
入社式までにはこの生活にも慣れておかなければ、せっかく早めに越してきた意味がない。
依舞稀はこれからの自分の生活に大きな期待と小さな不安を抱えながら四月一日を待った。
HOTEL KIRIGAYAの入社式は、想像していたよりもずっと簡潔だった。
社長のスピーチも驚くほど短く、逆に恐縮してしまうほどだった。
何より驚くと言えば、初めて見た副社長の姿ではないだろうか。
足が長く背も高い。
体つきもバランスも、文句のつけどころがない。
そして何より、ありえないほどに顔がいいのだ。
KIRIGAYAグループ社長、桐ケ谷誠之助(きりがやせいのすけ)56歳の一人息子、桐ケ谷遥翔(きりがやはると)30歳、独身。
彼が壇上に立つと、女性社員に留まらず男性社員さえも彼に見とれた。
かくいう依舞稀もその中の一人であったが、初めて見る整ったルックスに目を奪われるのは仕方のないことだったように思う。
それほどまでに遥翔は魅力あふれる人であった。
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