第一話

3/29
前へ
/124ページ
次へ
あれから、卒業式…そして高校の入学式に入り…ずっと同じ景色を眺めるだけの生活が始まった。 倒れたのはストレスなんかではなく、癌が検査で見つかったのだと聞かされた。 ショックを受けたけど、まだ余命宣告されたわけじゃないしとポジティブに考える事にした。 今の医療技術は進歩しているし、癌を治してくれると信じていた。 そしたら少し遅れたが高校に入学して、音楽の道を目指そうと生きる気力が湧いてきた。 でも、その気力は一年という長い年月で失われていった。 本当に癌は治るのか?何故手術とかしないで一年間ほったらかしなんだ? もしかして医師は俺が未成年でショックを受けないように余命宣告をしなかったのか? 不安で不安でたまらなくなり、ギュッと指先に力を込めると缶ジュースは少し窪んだが中身が入っているからかすぐに元に戻った。 べこべことそれを繰り返していたら、妹が一緒に持ってきたのかピンク色の水玉模様が可愛い紙袋を目の前に突き出した。 「お母さん今日は仕事で来れないみたいだから着替えだって!」 「……そうか、ありがとう」 「後これは私からのお見舞いの品だよ!」 「…見舞い?」 「お兄ちゃん、最近ボーッとしてて辛そうだから元気出してほしくて」 妹は昔から人の気持ちにはとても敏感で、いつも落ち込んでいると慰めに来てくれる。 どちらが年上か自分でもよく分からなくなる時がある。 見舞いの品とはいったい何だろう、少し重いが中身まで想像は出来なかった。 病室に戻ってから開けようと、妹と一緒に病院の入り口の自動ドアを潜り抜けた。 三階に病室があり、エレベーターに入り一気に三階に上った。 三階には何度か顔を合わせた患者が居て、軽く挨拶をしながら自分の病室のドアを横に引いて開けた。 大部屋だけど、この病室に入院しているのは自分だけなので個室とそう変わらなかった。 ちょっと寂しい気がしたが、誰かに入院してほしいとは思わないからこのままでもいいと思っている。 少し疲れてしまい…息が苦しくなってベッドで横になると心配した顔の妹がいたが、いつもの事だから大丈夫だと笑った。 いつも数分休んだら落ち着くから、大丈夫…大丈夫だ。 数分経過するといつも通り、身体は落ち着いて小さく深呼吸した。 せっかく妹が来てくれたのに申し訳ない、すぐに妹の見舞いの品を見よう。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

370人が本棚に入れています
本棚に追加