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「…今見てもいいか?」
「う、ん…でも無理しないでね」
これは無理でも我慢でもない、本当に大丈夫なのだがそれが伝わらないのがもどかしい。
紙袋の中を覗き込むと、最初に見えたのは緑色でストライプの寝間着…母が用意してくれた着替えだろう。
寝間着を取り出すと、少し大きな箱が見えて腕を紙袋の中に入れて箱を取り出した。
それはたまに付けているテレビのCMで流れる最新機種の携帯用ゲーム機ではないだろうか。
まだ発売してそんな経っていないから、高価なものだ。
さすがにこれはもらえない、そもそもゲームは小学生の頃しかしていないからもらってもどうすればいいか分からない。
「…これ、どうしたんだ?」
「へへっ、去年のクリスマスに買ってもらったんだ!」
どうやら父が妹にと買ってくれた大切な贈り物だったそうだ。
去年、クリスマスの日は皆で見舞いに来てくれて病室でクリスマスパーティーをした。
その時に父にプレゼントについて言われたが、こうして皆が来てくれた事が何よりも嬉しいプレゼントだと言った…その言葉に嘘偽りはない。
妹はこれを買ってもらったのか、でもそれじゃあ尚更受け取れない。
それを妹に告げると、妹はお見舞いの品だけどあげたわけじゃないと即答した。
じゃあこれは何なんだと、妹が何を考えているのか分からない。
「それはあげたんじゃなくて貸すの!お兄ちゃん入院中暇そうだったから、暇潰しになればいいと思って!退院したら返してね」
いつ退院出来るか自分でも分からないのに、妹は退院出来る日がきっと来ると信じているんだ。
そうだ、自分の身体を信じられないでどうするんだ…あの夢はその程度で諦められるほど薄っぺらくはないんだ。
誰もが認める歌手になって、苦労と心配を掛けた家族に恩返しがしたい。
妹のおかげで元気が出てきた、ゲーム機の箱を開けて本体を眺める。
紙袋に手を入れていた妹はなにかを取り出して箱の上に置いた。
まだなにかあったのか、ゲーム機に気を取られていて気付かなかった。
「もう、お兄ちゃんったら…ソフトがないと遊べないよ!」
「…あ、そうだ…そうだったな」
ゲーム機には何のソフトも入っていなくて、うっかり忘れていて恥ずかしくて照れ笑いをした。
妹はこの一つしか持っていないが、今クラスの女の子の間で流行っているゲームだと教えてくれた。
妹はまだ中学生だ、中学生の女の子が好きなゲーム…男の自分が考えても思い付く筈がない。
ゲームソフトのパッケージを眺めて、今はこういうのが流行ってるんだと学んだ。
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