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変な病気もなく、退院は意外と早く出来てやっと病院から抜け出せた喜びで笑った。
しかし母は全く俺の顔を見ないでまっすぐと目の前を向いていた。
最後に見た医師の険しい顔が今でも頭から離れずにいた。
日本の病院では見なかったが、カラフルな頭の人が沢山いた。
瞳の色も様々で、病室の窓に手を置いて覗き込むと映る俺のような黒髪に黒い瞳は珍しかった。
母も腰まで長い綺麗な黒髪に瞳だから遺伝だろう……平凡的な容姿も…
ここは外国なのかもしれない、話していた言葉は理解できたが文字が理解出来なかった。
でも英語でもなくて、見た事のない文字で何処の国かまでは分からなかった。
しかも病院から出て俺達を待っていたのは綺麗な装飾がされた馬車だった。
紐で繋がられた馬が首を長くして、地面に生えている草をむしゃむしゃと食べていた。
呆然とする俺を知らず母は馬車に乗り、病院がだんだんと遠ざかるのを窓から眺めていた。
馬車なのにほとんど揺れず、装飾馬車からしてお金持ちの子に生まれたのかもしれない。
生前の家族は決して裕福ではなかったが、明るい家庭だった。
いくらお金があっても買えないものはいくらでもある。
いつか、笑ってくれる日が来るといいと思い母の服をギュッと握った。
それを鬱陶しそうに睨み付けてくる母に恐怖を感じた。
それから下を向いて、家に着くまで母の視線に耐えて身体を震わせていた。
まるで憎むような、そんな憎悪が込められた瞳が怖かった。
母は一言「なんでアンタが生まれたのよ」と小さくぼそりと呟いた。
長いような時間を過ごし、やっとの事で家に到着した。
馬車から降りた揺れで、ギュッと瞑っていた目蓋を開けた。
するとそこにあったのは、お化け屋敷のような雰囲気がある古びた洋館だった。
何処かの木の根が壁に絡み付いていて、怖さをより演出していた。
さすがに窓ガラスは割れていないのが救いか、お金持ち……なんだよね?
木製のドアの前で母は足を止めて、ドアを開ける気配はなかった。
自動ドアではないから勝手に開かないと思うんだけど…
「ただいま帰りました」
少し声を張ってドアに向かって声を掛けると、触れていないのにドアが開いた。
まさか本当に自動ドアだったのか?と驚いていたが、内側から使用人が開けていただけだった。
メイド服の中年の女性がドアの向こうから出てきた。
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