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 薄れていく不安は、また別の不安となって俺を襲うようになった。  というのも、俺がこれまで抱えてきた不安は謂わば自分の生を看過する事への代償であり、その代償を支払わなくてもいいというのは、これまで自分が少しづつ築いてきた砦の喪失を意味していた。そしてその砦が、たった一人の女の存在により崩落されられるというのは、容易に受け入れられる事実ではないのであった。  それにより俺はますます、意識を内へ内へと向けるようになった。  己の殻に閉じ籠り、彼女を邪険に扱う事すらあったが、それでも彼女は笑顔を絶さぬまま俺の側にいて、俺という人間を容認し続けた。  それから間も無く半年が過ぎようとしていた頃だ。  彼女の物が増えた狭いアパートの中で、自分の惨めさに堪えられなくなって、とうとう俺は彼女に尋ねた。 「その。なんで、俺なんかを?」 「あっ。またって言ってる」 「なんで、俺と一緒にいるの?」  部屋の空気は相変わらず淀んだままで、それでもその中からは、生きた匂いが感じるようになっていた。それは言うまでもなく彼女がもたらしたものであったが、その原因が彼女自身にあるのか、彼女が持ってきた洋服や、俺が読んだ事のない人気作家の文庫本にあるのかは分からなかった。  
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