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「実はね、私が高木君に会ったのって、バイトの日が初めてじゃなかったの」  窓の奥の西日の橙が、彼女の滑かな頬の上で揺れている。 「もう二年くらい前になるかな。高木君、あのコンビニの駐車場で、暴力を振るわれている女の人を助けたの、覚えてない?」 「あ……」  記憶の隅にあった光景が、突然脳裏を過った。  二年程前、俺がレジに立っている時に現れた、酷く横柄な態度の男と表情の暗い女の二人組。 「もしかしてあの時の? でもあれは助けたっていうか、くじを引いていなかったから声を掛けただけで……」  そう。あの時はその頬にあった青アザに気をとられ、会計の後にくじを引かせるのを忘れてしまったのだ。それを思い出し駐車場へ出た二人を追い掛けると、男が一緒にいる女へ暴力を振るっていた。俺はそんな事は関係ないと、いつものように機械的に仕事をこなした。 「そのおかげで彼、あの後店の中に戻ったでしょ? その隙を見て私は逃げ出したの。あの時、彼が私を繋ぎ止めていたのは恐怖と孤独だけだった。でも高木君が、そこから抜け出すチャンスを与えてくれた」 「もしかしてそれが理由でコンビニのバイトを?」 「場所も大学に近かったし、彼がこの街を離れた事を風の噂で聞いていたからね。そういう縁もあった事だし、丁度いいかなって」
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