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 女の名前は、木場というらしい。この近所にある大学に通っているという話だ。  二日間前の顔合わせで「宜しくお願いします」と挨拶をされた時には「はぁ」だが「へぇ」だかと返事をしただけであったため、まともに接するのはこの日が初めてだった。 「木場さん。レジ打ちの経験はあるみたいだから、細かなところだけ教えてあげれば接客の方は直ぐに出来るようになると思うよ。他の事は追々かな。高木君とはシフトも被る事が多くなると思うから、フォロー宜しくね」  新人を教えたところで、時給が上がるわけでもない。軽々しく言う店長には腹が立ったが、「はぁ」だか「へぇ」だかと返事をし、仕事を始める。  いつも通り、自分が機械になったような気持ちで仕事をこなしていく。  入店のチャイムが鳴ったら「いらっしゃいませ」と音を鳴らし、カウンターに並べられた品物をレジに打ち込み、時折陳列物を並べ直す機械。コンビニという工場の中で稼働する、一機の機械。そうするのがこの時間を一番楽に過ごせるという事を、これまでの経験から知っていた。  今日は午後のシフト。木場もそうだったらしい。夕方に店長が帰ると、彼女と篠田という冴えないオッサンの三人で店を回す事になった。  この篠田というのが使えないオッサンで、俺より何年も長くこのコンビニで働いているというのに、まるで仕事が出来ない。
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