中編「おかえりなさいと言われる生活」

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     誠一の通う大学は、単科大学ではなく総合大学だ。一学年の人数は多く、学内の敷地もいくつかに分かれているが、入学式は新入生全員が西部講堂と呼ばれる会館に集まる形で行われる。  この入学式が終わって出てくる新入生たちにサークル宣伝のビラを配るのが、誠一たちの新歓活動のスタートだった。  そして入学式から数日後、再び新入生たちが一堂に会するイベントがある。本部構内の時計台という目立つ建物周辺で行われる健康診断だ。  その日、時計台の前では、健康診断のためとは別に複数の仮設テントが設けられている。あらかじめ申請して許可されたサークル、つまり大学公認のお墨付きのサークルが、新歓活動用に大学から割り当てられたテントだった。  学部によって時間帯は違うものの、大量の学生が一度に受ける健康診断だ。新入生はすぐには建物へ入れず、まずは青空の下で長蛇の列。  そこで手持ち無沙汰にしていると、色々なサークルから勧誘のビラを渡される。おそらく「ああ、入学式の日にも配られた……」と思うだろうが、この日は入学式とは状況が違う。  彼らが並んでいる列はゆっくりとしか進まないので、ビラを渡す方でも時間に余裕がある。渡された新入生の反応次第で「君、こういうサークル活動に興味あるかい?」と、話しかけてくる場合があるのだ。  さらに「あそこのテントで、詳しい説明があるから。健康診断の後で、ぜひ立ち寄ってくれ」と、入部してくれそうな学生に目星をつけて……。健康診断の終わった新入生を順次、仮設テントに呼び込み、飲み物やお菓子で歓迎しながらサークルの紹介。  サークル活動の話だけでなく雑談もする。例えば「講義計画書(シラバス)は見たかい? 単位の取りやすい講義や、授業そのものが面白い講義もあるけど、おすすめは……」などと選択科目のアドバイス。これは、高校とは違う『大学』という場所に来たばかりの学生に対して効果的だ。少し個人的にも親しくなって「知り合いの先輩が出来たから、このサークルに入ろうかな」と思わせる……。  だから誠一のサークルでは、健康診断の日こそが、いわば新入部員獲得のメインだった。  こうして新入生の後輩がサークルに入ってきて、学生の本分としても、いよいよ新年度の授業が始まり……。  誠一は、大学生活の二年目を迎えることとなった。  それも、部屋に美女の同居人がいる、という新鮮な状態で。    
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