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「ああ、食った、食った。満腹、満腹」
足を投げ出して腹をさすりながら、満足そうな誠一。料理をぺろりと平らげてしまい、ご飯だって何杯もお代わりしたくらいだった。
そんな彼を、幸せそうに眺めるマコト。
彼女と目が合って、誠一は、ふと呟く。
「そういえば……。俺、幽霊の君が作ったもの食べちゃったけど、大丈夫だよな? ヨモツヘグイとか、そういうのないよな?」
死者の国の食べ物を口にすると死者の国から出られなくなる、というエピソード。確か、古事記に書かれていた話だ。ギリシャ神話でも、似たような逸話があるという。
「ヨモツヘグイ? 何ですの、それ?」
マコトは、きょとんとした表情を向けている。
「……そうだよな。インスタントをあれだけ美味しくしてしまうマコトに、そんな悪意なんてあるわけないよな」
疑って悪かった、と誠一は思う。
そもそも、いくら幽霊の手料理とはいえ、材料自体は誠一の部屋にあったものだ。ならば『ヨモツヘグイ』の例が当てはまるはずもない。
「ごめん、ごめん。今の話は忘れてくれ」
「よくわからないけど、誠一さんが言うのでしたら……」
マコトの態度は、おしとやかな良妻のようにも思える。
そんな彼女を見て、誠一は「別に慌てて追い出す必要もないか」と、考えを改めて……。
同時に、心の中で苦笑いするのだった。
幽霊との同居だなんて、ひょんなことからあの冗談が本当になったな、と。
これこそ絶対に秘密だな、と。
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