中編「おかえりなさいと言われる生活」

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     遠出(とおで)のデートは無理としても、近所を散歩するだけでもいい。マコトのような美人が一緒なら、ただ並んで歩くだけでも、幸せな時間になるだろう。  最も望ましいのは、音楽の練習に付き合ってもらうこと。一人で個人練習をする際に、マコトが同行してくれたら……。隣で黙ってニコニコと演奏を聴いてくれる彼女の姿を、誠一は妄想してしまった。  誠一が通う大学は、大学院の研究室もあるせいか、夜中でも人の出入りが結構ある。色々と厳しくなった現代でも、まだセキュリティが(ゆる)めで、裏口が施錠されない建物もあった。  夜になると、そうした校舎の空き教室や廊下の片隅、階段の踊り場などで、音楽系や演劇系のサークルの者が、勝手に練習をしている。大学院の研究室の近くで騒音を立てれば怒られるので、使うのは研究室から離れた一階と二階のみ、という不文律もあった。  誠一も時々、そうやって一人で練習をすることがあるのだが……。 「あら、私が外出ですか?」  食材を鍋に入れて、火にかけたところで、マコトが振り返る。誠一の呟きが、耳に入ったらしい。 「ああ、ごめん、ごめん。地縛霊のマコトには、無理な話だよなあ」  誠一は、照れたような顔で、軽く頭をかいた。無茶な要求をしているようで、少し恥ずかしい。 「それでしたら……」  マコトはサッと手を洗った後、頬に指を当てて小首を(かし)げながら、誠一に対して意味ありげな笑顔を見せた。 「……今は無理でも、いずれは出来るようになるかも」    
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