中編「おかえりなさいと言われる生活」

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     それから二ヶ月ほど過ぎた、ある日のこと。 「ただいま」 「誠一さん!」  帰宅した誠一は、ガバッと抱きつかれた。いつもの「おかえりなさい」とは少し違う形で、マコトに迎えられたのだ。  人の温もりとは異なる、ひんやりした幽霊独特の感触。だが肉体的な凹凸(おうとつ)は、生きている人間と同じ。つまり女性の曲線美が、ダイレクトに体に伝わってくる。  しかも幽霊とはいえ、マコトは美人だ。美人に抱きつかれることも、こんなに近くでその顔を眺めることも、誠一には初めての経験だった。それこそ夜の添い寝よりも、まだ距離が近いのだ。 「……え? ……え?」  ドキマギしてしまう誠一に対して、マコトは弾んだ声で告げた 「今週末、デートしましょう!」 「デート……? でもマコトは、このアパートの外には……」 「大丈夫です!」  誠一と密着したまま、胸を張って断言する。  この状態で『胸を張る』というのは、むしろ『胸を当てている』に等しい。そう思ってしまう誠一に対して、マコトは説明を続けていた。 「誠一さんと過ごすうちに……。誠一さんのおかげで、幽霊としての力も増してきましたから! そろそろ、ある程度の時間ならば、ここを離れることも可能です!」  マコトの胸の感触が気になって、誠一の思考力は今、低下している。冷静に考えられない。それでも一応「マコトが外出可能になった」ということだけは理解できた。 「デート……? 嬉しいけど、女の子とのデートプランとか、俺には考えられないし……。それに、週末は、楽譜屋に行こうと思っていて……」  誠一だってマコトとのデートを夢見ていたはずなのに、ついテンパってしまったのだろう。口から出てくるのは、否定的な言葉だった。 「デートプランですって? 誠一さん、難しく考え過ぎですよ。私の『デート』という言葉が、大げさだったのかしら?」  マコトは誠一の拒絶を押しのけて、ぐいぐい迫ってくる。 「ただ私は、誠一さんと一緒にお出かけしたいだけ! 楽譜を買いに行く予定なら、その買い物にご一緒させてください!」 「いや買いに行くというより、ちょっと楽譜屋へ見に行く程度かな。買うかどうかは、まだ決めていない……」 「ああ、ウィンドウショッピングですね! それこそデートっぽいじゃありませんか!」  こうして。  週末の楽譜屋デートが決まるのだった。    
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