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ヨーロッパの民話か神話に出てくる、愛の妖精。芸術家に取り憑いて、芸術方面の才能を高めてくれるという。ただし代償として、芸術家は生命エネルギーを吸い取られるので、長生きは出来ない。いわゆる天才芸術家が早逝するのは、リャナンシーのせいだと言われている。
それが、誠一の知る『リャナンシー』の説明だった。
「そう、マコトのおかげだ」
マコトが色々と手助けしてくれたからこそ、自分は音楽の道に進むことが出来た。プロになるほど才能が伸びた。そう誠一は認識していた。
「別に俺は、マコトに寿命を吸われているわけじゃないけどね」
冗談っぽく笑いながら、誠一は付け加える。
「いや大学を一年留年したのが、それに相当するのかな」
留年したことで大学卒業が遅くなり、社会に出るのが一年遅れた。人生の中で稼いでいける期間が一年減ったのは、比喩的な意味では『寿命が一年縮んだ』と言えるのではないだろうか。
「でも留年で済むなら、安いものさ」
誠一としては、完全にジョークのつもりだった。
しかし……。
「あら!」
マコトは目を丸くして、口に手を当てていた。
「そういうことでしたら……。まさに私は、リャナンシーですね」
「……え?」
困惑する誠一に、ホホホと笑いながらマコトは続ける。
「だって私は幽霊……。それも、いわゆる悪霊の類いですもの」
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