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「おいおい。健気に俺の世話をしてくれる、良妻みたいなマコトだぞ。悪霊のわけないだろう?」
誠一は、彼女の言葉を笑い飛ばしたが……。
「やだなあ、誠一さん。それは褒め過ぎ。私だって、無償で妻をやっているわけじゃなく、しっかり代価を貰っていますわ。あなたの精を吸わせてもらう形で」
この場合の『精』とは、生殖に関わる精子や受精などの『精』ではなく、精気の意味。つまり生命エネルギーのことだろう。
「たくさん一度に吸ったら体に影響が出るから、少しずつ吸うように努めてきましたが……」
喋りながらマコトは、ペロリと唇を舐めていた。まるで「ごちそうさま」とでも言うかのように。
「でも、こうして姿を見せて、あなたにも私を認識してもらった以上、吸い上げる速さも自然と増してしまったのでしょうね。結果的には、過去最大の精気を頂戴したみたい。今まで取り憑いてきた誰をも上回るほど大量に……」
誠一は思わず、自分の頬に手を伸ばす。触った感触でもわかるように、すっかり頬は痩せこけていた。
マコトは、彼のその手に視線を向けて、言葉を続ける。
「そうですね、そろそろ限界でしょう。ごめんなさい。私も残念です。もっと一緒に過ごしたかったのに……。影響の蓄積が一気に噴き出してきますから……。さようならですわ」
誠一の頭に浮かんできたのは、限界以上に水を溜め込んだダム。それが耐えられなくなり、決壊する光景だった。
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