前編「エイプリルフール」

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    「いや、おめでとう。お前にも春が来たなら、素直に祝福するぞ。そんな時に、わざわざ来てくれて……」  冒頭の場面に戻れば、飯田の「おめでとう」を受けて、誠一は少しだけ胸が痛んでいた。  本心から喜んでくれている友人に対して、いつどのタイミングでネタバラシをするべきだろうか。迂闊に(ほう)っておいたら、話が大事(おおごと)になってしまいそうだ。  しかし、そんな心配をする必要はなかった。  二人の会話は周囲にも聞こえており、近くで作業をしていた別の友人が、見かねて声をかけてきたのだ。 「おい、騙されるなよ。飯田だって、四月馬鹿(エイプリルフール)って言葉くらい、知ってるだろう?」  そう、今日は四月一日。いわゆる「エイプリルフール」であり、三百六十五日の中で唯一、嘘が許される日だった。  だからこそ誠一は、遅刻の言い訳として、適当な冗談で(けむ)に巻くつもりだったのだが……。 「四月馬鹿(エイプリルフール)……?」  聞き返した飯田は、一瞬遅れて、ようやく理解したらしい。 「ふざけるなっ!」  彼は烈火のごとく怒り出す。どうやら逆に、火に油を注ぐ結果になってしまったようだ。    
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