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「いや、おめでとう。お前にも春が来たなら、素直に祝福するぞ。そんな時に、わざわざ来てくれて……」
冒頭の場面に戻れば、飯田の「おめでとう」を受けて、誠一は少しだけ胸が痛んでいた。
本心から喜んでくれている友人に対して、いつどのタイミングでネタバラシをするべきだろうか。迂闊に放っておいたら、話が大事になってしまいそうだ。
しかし、そんな心配をする必要はなかった。
二人の会話は周囲にも聞こえており、近くで作業をしていた別の友人が、見かねて声をかけてきたのだ。
「おい、騙されるなよ。飯田だって、四月馬鹿って言葉くらい、知ってるだろう?」
そう、今日は四月一日。いわゆる「エイプリルフール」であり、三百六十五日の中で唯一、嘘が許される日だった。
だからこそ誠一は、遅刻の言い訳として、適当な冗談で煙に巻くつもりだったのだが……。
「四月馬鹿……?」
聞き返した飯田は、一瞬遅れて、ようやく理解したらしい。
「ふざけるなっ!」
彼は烈火のごとく怒り出す。どうやら逆に、火に油を注ぐ結果になってしまったようだ。
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