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「た、ただいま……」
反射的に返してしまう。
この部屋で暮らすようになってから「ただいま」という言葉を口にするのは、これが初めてだった。だが、そんな感慨に浸っている場合ではなかった。
「君は……。誰?」
尋ねながら誠一は、相手をよく観察する。
年齢は誠一と同じくらい、つまり二十歳前後だろう。
長い黒髪の目立つ、色白の女。これ以上の白さだと「青白い」とか「病弱そう」とか言われそうだが、そうならない程度のギリギリを保っていた。
整った顔立ちで、くっきりとした瞳や、おちょぼ口が特徴的。地味で大人しめな服装と合わせれば、清楚系美人ということになるのだろうか。
座っているからわかりにくいけれど、体格は中肉中背。巨乳の方が好みなはずの誠一から見ても「全体のイメージに似合っていて素敵」と思えるような、慎ましやかな胸の膨らみ具合だ。
彼女はニッコリと笑顔を浮かべて、誠一の問いに答える。
「マコトです」
「いやいや、名前を言われても……」
それでは、何も状況が理解できない。
留守の間に入ってきたということは、不法侵入ということになるが……。
誠一が考えていると、マコトと名乗った女性が説明を続ける。
「今日から、こちらの部屋にお世話になることになりました。どうぞ、よろしくお願いします」
え? どういう意味だ? やっぱり意味不明だぞ?
誠一の頭の中で、クエスチョンマークが飛び交う。
まさか、実は秘密の許嫁がおり、彼女が二十歳になったら同居するよう、決められていたとか……。
漫画やアニメのような妄想をしながら、改めて誠一が尋ねる。
「もう一度、聞く。君は何者? どういう立場で、俺の部屋に……?」
「申し遅れました。私は地縛霊です。あなたに取り憑きに来たと言えば、わかってもらえるでしょうか」
マコトは満面の笑みで、そう答えた。
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