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マコトが説明を始める。
今まで彼女は、誠一の真下の部屋で暮らしてきた。二階のその部屋は、大学院に通う男子学生が借りていたのだが、博士の学位を取得して、三月いっぱいで部屋を出てしまったという。
「卒業しても三月末まで、大学の近くに住んでいたのか……」
妙なところが気になって誠一が口を挟むと、マコトは律儀に答えを返してくる。
「理系、それも理論系ではなく実験系だったので、色々と忙しかったようですね。研究の引き継ぎが大変で、ギリギリまでこちらに残る形になったとか」
「別に、美女幽霊との生活が楽しくて長居した、ってわけじゃないよな?」
「あら、やだ。美女幽霊だなんて……」
誠一に褒められたと思ったらしい。マコトは、まんざらでもない顔をする。
「でも、違いますわ。だって私、二階のその人には、姿を見せませんでしたもの」
二階の部屋でも彼女は、その学生に取り憑いていた。だが、あくまでも姿は隠したまま、こっそりと憑いていたのだという。
「じゃあ、なぜ俺の前に現れた? 俺にも『こっそり』でいいだろうに」
つい、そう言ってしまう誠一。
幽霊の存在など知りたくなかったという気持ちもあるが、秘密裏に取り憑かれて体調が悪化でもしたら、それはそれで困る。どちらが良いのか、複雑な心境だった。
「それは……。そうですね、その理由を説明するためにも、話を続けましょう」
中断していた説明を再開するマコト。
誰もいなくなった部屋で、彼女は最初、新しい入居者を待つつもりだった。だが、ふと「他の部屋へ行くのはどうだろう?」と思い立った。地縛霊とはいえ、マコトは部屋に縛られているわけではなく、このアパートの土地に結び付けられた幽霊。だから、アパート内を動き回る程度の自由はあるのだ。
そして、たまたま最初に訪れたのが、この誠一の部屋だった。それが、昨晩の出来事だという。
「昨晩?」
「そうです。実は私、昨日の夜から、ここにいたのですよ」
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