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マコトの言葉で、今さらのように誠一は思い出す。
いきなりの幽霊登場で忘れていたが、部屋に入った途端、美味しそうな匂いがしていたのだ。てっきり気のせいかと思ったのだが……。
「君、料理できるの?」
「はい。頑張れば、物に触ることも出来ますから」
そう言って胸を張るマコト。
普段とのギャップで、胸を張った時に強調される度合いも大きく感じられるのだろうか。むしろ巨乳よりも控えめな胸の方が、このような『胸を張る』という仕草は魅力的に見える……。誠一は、どうでもいいことを考えてしまった。
「でも味見は無理なので、レシピ通りにしか作れませんが……」
その『レシピ通り』が出来ない人間が、世間には大勢いるのだ。気を落とす必要はないだろう。
「そもそも、この部屋に料理の本なんてあったっけ?」
「はい。ですから今日の料理は、あまり自信ありませんが……」
少し顔をしかめながら誠一が呟くと、マコトは「失敗しちゃった!」みたいな顔で、ペロッと舌を出してみせてから、
「……ぜひ明日、買ってきてくださいね。料理のレシピがたくさん書かれた本を!」
新婚ほやほやの若奥様のように、甘えた声でおねだりする。
「まあ、誰に作られたにせよ、出来上がった料理に罪はない……」
「そうです! さあ座って、座って!」
誠一の呟きを聞いて、マコトは嬉しそうに彼の手を引き、テーブルへと案内する。
彼女の手に触れたことで、誠一は「物に触ることも出来るというのは本当なんだな」と実感する。交際経験のない誠一は、女性との肉体的接触を素直に嬉しく思うと同時に、ひんやりしたマコトの手の感触から、マコトが幽霊なのをひしひしと感じるのだった。
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