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「ぜひ、ご賞味ください」
テーブルの上には、マコトの手料理が並べられていた。
炊きたてのご飯に、美しい赤色が食欲をそそる麻婆豆腐。湯気の立つ温かい味噌汁と、芸術的なほどに細く切られたキャベツの千切り。
品数は少ないが、一応は『麻婆豆腐定食』ということになるのだろう。
「じゃあ、せっかくだから……。いただきます!」
先ほどの「今日の料理は、あまり自信ない」発言が頭にちらつきながらも、誠一は意を決して、料理に箸をつける。
「おおっ? これは……」
「どうでしょう? お口に合いますでしょうか……」
口に運ぶ前の心配は杞憂だった。
悪くない。
いや、それどころか……。
「うん。美味しいよ、これ!」
「まあ! それは良かった!」
パッと明るくなるマコトの顔を見ながら、誠一は、料理をガツガツと胃袋に収めていく。
特別美味でもなく、基本的には、いつも自分で作るのと同じ味だ。慣れ親しんだ味とでも表現するべきか。
だが、これは誠一ではなく、マコトが作った品々なのだ。
自分に一目惚れしたという美人の手料理。それだけで誠一は、これを美味しいと感じてしまう。
「これなら、いくらでも食べられるよ」
冷静に考えるならば、味噌汁はお湯を注ぐだけの完全インスタント。麻婆豆腐だって、豆腐を加えて火を通せば完成するレトルト食品だ。書いてある通りに作れたら、失敗することはないし、逆に特別美味になるはずもない。
そもそも冷蔵庫と台所の食材だけで作る以上、この程度しか用意できないのは当然だろう。男の一人暮らしで、ふんだんに食材がストックされているわけもないのだから。
同じレトルトの麻婆豆腐でも、誠一が自分で作る場合は、指定の調理法に従うのではなく玉ねぎを加えるのだが……。
たまには、こういうシンプルなのも悪くない。
そう結論づけた誠一は、自分を納得させる意味も込めて、あらためてマコトの料理を高評価する。
「ああ、やっぱり『誰かのために作る』というのが大切みたいだ。こればっかりは、俺一人じゃ無理だな。愛情こそ、最高の味をもたらすスパイスになるのだろう」
「そこまで言われると、ちょっと照れてしまいますわ」
恥ずかしい台詞を口にした誠一に対して、幽霊なのにマコトは少し頬を染めて、美人に似つかわしく、しなを作るのだった。
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