前編「エイプリルフール」

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前編「エイプリルフール」

    「いいか、これは絶対に秘密だぞ。誰にも言うなよ? 実は……」  わざとらしく周りを見回しながら、友人の飯田(いいだ)に顔を近づける。 「……俺、昨日から同棲生活を始めてさ。それで今朝はバタバタして、遅れちまったんだ」 「えっ、同棲? 女っ気のない神支路(かみしろ)に、いつのまに恋人が……?」  飯田は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっていた。目をパチパチさせているのは、それで頭を切り替えようと努めているのかもしれない。 「いや、おめでとう。お前にも春が来たなら、素直に祝福するぞ。そんな時に、わざわざ来てくれて……」  と、文字通り「素直に祝福」するのだが……。    
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