作業

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作業

 彼は物珍しげに室内を見回している。  それにかまわず、俺はすぐに作業に入った。そうとうな枚数があるのは分かっている。画素数を落としたくないので、ちんたらやってたら作業は深夜に及びそうだ。急がないと、しびれが切れた彼がなにをやり出すか分からない。  手当たり次第に次々とプリントアウトしていく。  当初は焦りで背に汗をかきながらの作業だったが、思った以上に良い画が多かった。これはと思うものがあると、ついつい手を入れて完成度を上げてしまう。  やはり思った通り、これは意外に、光がこんな風に出るなんて────次を、また次をと見て行くにつれ、いつしか作業に集中してしまっていた。  生理的な空咳が出て、ハッと我に返る。  尋常じゃ無く喉が渇いていた。  手を止めて腰を上げ、冷蔵庫からビールを取り出す。立ったままひとくち飲んで、癒される渇きにほうっと息を吐き、缶を持ったまま作業に戻ろうとして────気づいた。  彼が、安いソファでプリントしたものを見つめている。  すっかり忘れていた。まずい。 「あ~~、……すまない。喉渇いたか? ……といってもビールと水しか無いが……ああ、腹減ってないか? えーと……カップ麺がどこかに……」  わたわたとキッチン辺りで動いたが、たいしたものは無い。食事はたいてい外食、あるいはマネージャーが持ってくるものを食う。自宅ではコーヒーすら入れない。  目線を手元に落としたまま、彼のくちびるが僅かに動き、呟くような声が聞こえた。 「ねえコレ、今日撮ったやつ、だよね?」  だが他に音の無い部屋で、しっかり耳に届く。ビールをもう一口飲んで咳払いをして喉を整え、声を返した。 「……ああ、そうだ」 「これ、全部?」 「ああ……いやまだ、半分程度しか……」  慌てて言い添える。実は三分の一を超えたかどうかというところだったが、ついかさ増しして言った。しかし彼はじっと手元を見つめたまま動かず、声も返してこない。 「あ~、悪い、退屈だよな。急ぐから……食うもん無いからデリバリーでも、そうだ確かどっかにピザのチラシが……」 「俺……」  呟く声にくちを噤むと、彼の目が動いた。  こちらを見て、また目を逸らす。 「も、してくれ」 「え?」  手元のプリントを指先で数度弾き、睨むような目を向けられる。 「今日撮った俺も、やって。プリント」  しばし、息が止まった。
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