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PROLOPUE 鳩子
鳩子に会いたい。
鳩子というのは、慶司にとって大事な人だったはずだ。けれども、関係性がわからない。
鼓動が激しくなっていく。
焦るな、と自分に言い聞かせる。
焦ったっていいことはない。自分のことすらまともに思い出せない。
どうしてこんなことになってしまったのだろうかと、途方に暮れる毎日である。
酷いことを言われたような気がする。けれども、言われた傍から忘れていく。言っていたのは誰だったろう。
お母さん。悲しい顔をしていた。
そして慶司は大切なものを失くしてしまったのだ。
慶司は、この部屋でじっと待っていなければならなかった。それだけが今の慶司にできることだった。
記憶がどんどん失われていく。今は言ってるそばから。過去も隙間だらけだ。
信じられるものはもう何もない。今、考えている自分も、考えている間に前と後ろが消えていく。自分が誰なのかも自信がない。自分は一体誰なのか。今、ここは何処で何をしているのか。何もかもが真っ白で、信じられるものが何もない。生きていることすらも自信がない。そうなると、自分は果たして本当に生きているのか。
それでも、霧が少し薄くなることはたまにあり、そのときはいつも、自分の名前と大切な人の顔が頭に浮かんでくる。
大切な人の名前、それは思い出せるときと、どうしても駄目なときがある。慶司の心を躍動させる面影――関係性はわからない。
そうだ、鳩子を探さなければ。慶司は、いま自分が行かなければ鳩子はもう戻ってこない気がした。
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