小さな荷物

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 目が覚め、部屋の時計を見ると丁度六時半だった。  ぐ、と伸びをして布団から起き出す。  障子を開けて縁側に立ち、雨戸を開けると、眩しいくらいに陽が差し込んできた。  家と門の間にある庭にある植木の葉が朝陽に照らされキラキラと光っている。百日紅の花はもう大分開いていた。そんな初夏を感じさせる光景を、暫く眺めていた。  仕事を辞めてから二ヶ月が経った。  慣れない一人暮らしと長時間労働に加えて上司から嫌がらせを受け、身も心もボロボロになっていた。身体が限界を訴えたのか倒れてしまったのが三、四ヶ月ほど前。  躊躇いはあったが、両親と医師の後押しで仕事を辞めることにした。そして、暫くの間、実家から少し離れた片田舎にある祖母の家に滞在することになった。  必要なものを小さな段ボール箱に詰めて、自宅から送った。  これしかないのかと微かに驚きを覚えたくらいに、ちっぽけな荷物だった。
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