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何も生み出せない俺なのに、
なぜか現世で起きている事がしっかりと目に見えている。
俺の通夜、俺の葬儀。見えるだけじゃなく聞くこともできる。
火葬場で棺桶を入れた後閉じた扉の重々しい音もしっかりと
耳の奥に残っている。不思議だ。
・・死んだ人ってみんなこういう風に見たりできるのかな?・・
骨壺を抱え車に乗り込む家族を見下ろしながら死人なりに呟いてみる。
するとどこからともなく声が聞こえてきた。
「成仏できないとこうやって現世を上から眺めてるのさ」
すぐ隣にオッサンがいた。俺と同じように宙に浮かんだオッサンが。
ビックリして悲鳴を上げたが、オッサンは、
「なるべく早く成仏してあの世に行けよ」と微笑んだ。
「あの、聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「オッサン・・いえおじさんも成仏してないんですか?」
「ああ、一人娘が気がかりでなかなかあの世へ行かれなかったんだが、
さっき私の仏壇に結婚の報告をしてくれた。これでやっと成仏できる。
だからこれからあっちへ行くよ。
キミも未練とか思い残しがあるなら早く解決してこいよ。待ってるからな」
どこの誰だか知らないオッサンは、もう一度俺に微笑みかけて、
それから砂を舞い上げるようにして姿を消した。
・・未練か・・
ゆっくりと動き出した葬列の車を見送った後、
俺の住まいであったあのデザイナーズマンションの部屋へと向かった。
もちろん、宙をひらひらと飛びながら。
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