腕のいいマッサージ師です

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 俺はこの部屋で死んだ。かなり気に入っていたデザイナーズマンションの、床にたたきつけられて死んでしまった。殺されたなんて物騒な話じゃない。 電気の傘を取り換えようとして脚立から落ちたのが原因だ。 打ち所が悪かったってやつだ。おまけにその時一人きりで、 友達でもいればすぐに救急車を呼んでもらえただろうに。 発見されたのはほぼ一日後。 遊びにくる約束をしていた兄貴が第一発見者だった。  事故死であろうことは、部屋の壁に傷をつけて倒れ掛かっている脚立と 転がっている電気の傘が物語っていただろうが、 一応警察が入って調べた結果、事故死として処理された。 「せっかく気に入った部屋に住めるようになったのに・・」 兄・和夫の落胆ぶりは、見ていてかわいそうなほどだと、 死んだこっちが心配してしまう。 親父もお袋も、悲しみに打ちひしがれながら怒っていた。 なんで親より子供が先に死ぬんだ、と。 これ以上の親不孝はないとひしゃげた声をあげたあと、 絞り出すような嗚咽を漏らした。  そんな親不孝な俺・三ツ橋真樹生は、腕をあげて収入も増やした、 マッサージ師だった。
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