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それからたびたび、俺は信二の肩に手をかけた。
ベッドにうつぶせになっている時には背中から腰にかけても丁寧に揉みほぐした。腕は鈍っちゃいない。サロンで仕事をしていた時と何ら変わっていない、と自信を持って言えるのだが、なぜか力加減が分からない。向こうが透けて見える俺の手でどれくらいの力が入っているのか、いまひとつ感覚がわからない。
時々力が入りすぎるのか、信二は苦痛に顔をゆがめる。そして低いうなり声をあげたりする。
・・お客様、これくらいの力加減で大丈夫ですか?・・
「うぅ・・また肩が重い・・なんか背中に乗ってるみたいだ・・なんなんだよぉ」
あたふたと体を起こし部屋中に視線を走らせる。たぶん俺を探しているのだろう。形を成さない「なにか」の存在を疑っているらしい。いる、と分からせた方がいいのか、そうしない方がいいのか。霊になりたての俺にはまだそこんとこはよくわからない。
・・もう少し様子を見たほうがいいな・・
俺は信二から離れてロフトから様子を窺う。信二は悪寒から解放されたのか、顔色ももとに戻った。ガサツさばかりが目立つ雅こと信二だが、人としての弱さだってちゃんと持っている。人間の、心の中の本当と嘘を観察するべく、このホスト野郎との同居を続けていこう。
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