一人目の同居人

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                                  今夜の雅はかなりのダメージを受けていた。 客との言い合いでメタメタにされていた。相手が悪かった。中年の女社長。どっからみても立派なおばさん。まずは雅の見た目にケチをつけ、さらには接客態度にケチをつけ、ムカつく雅の反撃の言葉におばさん社長は、持ち味でもあるおばさんの本領を発揮して息つく暇なく雅に罵声を浴びせた。天井から見ていた俺だけじゃなく一緒に席についていた後輩ホストも雅に憐れみの眼差しを送った。きっとおばさんの虫の居所が悪かっただけなのだろうが、これ以上おばさんのまくし立てる大声が続くと他のお客に迷惑になると判断した先輩ホストが、やんわりとした空気を保ちながら強制的におかえりいただくよう促した。  にぎやかなのに静けさの漂った店内で、雅にしてはめずらしく他のお客や店の仲間たちに頭を下げていた。客達は、ありがちなクレーマーだとさらっとしたものだったが、スタッフたちは雅の態度に戸惑っていた。めずらしい、とか、なんかかわいそうとか。それほど雅の謙虚な姿勢というのはみんなにとって珍しいことだったらしい。  バツが悪くなった雅は早上がりをした。店長もそれを許可した。あんまり気にするなと優しく声をかけると、雅は深く頭を下げた。その後さらにめずらしく、一本裏の通りにある店の縄のれんをくぐった。帰りに飲み屋に寄るところを見たのは初めてだった。 「ようミヤちゃん久しぶりじゃないか」 カウンターの中のタオルハチマキのおっちゃんはとびっきりの笑顔を雅に向ける。 ミヤちゃんと呼ばれるくらいの間柄なんだから長い付き合いなのか、言葉をあまり発しない雅に余計な言葉はかけずに冷酒と焼鳥を見繕って黙って前に置いた。他の客の、酒に踊らされているようなテンポ良い話声に耳を傾けながら時々ハチマキおっちゃんと言葉を交わし、ほのかな酔いに身を任せていた。  3、4杯飲んで、〆に焼きおにぎりで腹を満たした雅が金を置いて立ち上がるとおっちゃんは、「くよくよせんで頑張れや」とまるで今夜の出来事すべてを見通したかのような言葉をかけた。ようやく雅は歯を見せて笑い、店を後にした。
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