一人目の同居人

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 いよいよ明後日が退去の日。信二は部屋を引き払う準備をしていた。 午後の日差しが低くなってきた頃、インターフォンが鳴った。 カメラに映る人物を見て信二は驚きと嬉しさを混ぜたような声を上げてドアを開けた。 やって来たのは雅が働いていたホストクラブの店長だった。 「明後日引っ越すんだろ?ちょっと手伝い、それとこれ」 店長は信二の鼻先に折詰の寿司と缶ビールの入った袋を揺らした。 眉尻を下げ笑みをこぼした信二に店長は、 「なんだよ、いい顔できるじゃねえか。なんで店で見せなかったんだ?」と 薄く笑いながらシャツの袖をまくった。    ビール用のグラスを2つ残して生活用品のほとんどを箱詰めし終えたところで作業を切り上げた。段ボールをテーブル代わりにして、 店長の差し入れの寿司と缶ビールを並べ、妹・美樹以外の人間との食事がこの部屋で始まった。 グラスにビールを満たす雅の仕草に店長は憂いた眼差しでグラスを見つめた。 「田舎に帰るっていうのが辞める理由だって言ってたけど、  ほんとにそうなのか?他の店に行くとか別の仕事するとか、  そういうのじゃないのか?」 店長は、雅が店の片隅で辞める旨を伝えた時、あまり多くを聞かなかった。 周りの目を気にしたのか店の開店準備に気を取られていたのかと思っていた。その日俺は雅と一緒に出勤してずっと様子を見ていたから、店長はスタッフが辞めていくことにいちいち心を動かさないのだろうとも思った。 今どきは、簡単に仕事を辞めるし替えていく。ましてや水商売だ。 次から次へと人が入っては出ていく。出会いと別れには慣れっこになって、 感情は鈍感になっているのだと悪い印象をもっていたが、だったらわざわざ 辞めたスタッフの引っ越しの手伝いになんか来るわけない。 2人だけの空間で、本音を聞きたいみたいだ。
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