一人目の同居人

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 信二は、いや雅は、店長の結論まで到達しない言葉に首をうなだれた。 言わんとしていることが何となく伝わってきたからだ。  しばらくどちらも黙ったままでいた。寿司をつまみビールを流し込み、 窓の外に広がるいつの間にかの闇に時間の流れを感じていた。 「俺・・ホストに未練はないです」 沈黙を破ったのは雅こと信二だった。 「俺、客を、女を楽しませることに喜びっていうかやりがいを感じないっていうことはホストを始めてからうすうす自分で気づいてました。 ここまでやってみてよくわかりました。 もっと自分にできることがあるはずだ・・それをちゃんと考えてみます。 そのために、というよりはずっと家にも帰らず親不孝してたんで、 この機会に一度田舎に戻って自分を見つめなおします」 「そうか。そういう気持ち持ってるなら、俺も安心して送り出せるよ」 店長はグラスを持ち上げ信二のグラスにカチンと当てた。 ありがとうございます、と信二はグラスを上げて店長に深々と頭を下げた。  空気が和み、ビールをつぎ足し、寿司をきれいにたいらげて、 静かな宴は終わりを迎える。  立ち上がった店長に礼を言い、玄関で靴を履く店長の後姿に信二は、 「引っ越しするのにはもう一つ、わけがあるんですよ」と少し声を落とした。 「この部屋・・なんかいるみたいなんで。じつはこの部屋、  事故物件なんですよ」 マジか!と叫んだのは店長ではなくこの俺だった。
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