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二人目の同居人
何もない部屋で静かに暮らす日が3週間ほど続いた。窓の外は憂鬱な雨。それでなくても一人で寂しいのに、灰色の空と雨粒の跳ねる音はますます心を細らせる。ロフトで寝転がってぼーっとしていると、突然金属音が響きドアが開いた。
「さあどうぞ」
女の声が響いたかと思うとパタパタとスリッパが床を滑る音が聞こえてきた。足音は2つ。
「あらあ、いいじゃない!コンクリートの打ちっぱなしってやっぱおしゃれねえ」
ロフトから顔をのぞかせ来訪者を確認する。不動産屋と客のようだ。どちらも中年、50前後ってとこだろうか。あの不動産屋に女の店員なんていたかな、と手にしている書類をのぞき込む。俺の世話になった不動産屋とは別の名前が書いてあった。そうか、不動産屋の物件は一つの店だけで扱っているわけじゃないんだ。
「この部屋なら10万超えていてもしょうがないわね」
案内されてきた女が言う通り、俺が借りた時の家賃は10万6千円だった。
信二の時は事故物件だったから相場よりかなり安い家賃だった。
でも、一度でも誰かが借りたらそれはもう事故物件扱いじゃなくなるって、
聞いたことがある。この女は相場の家賃で元事故物件だと知らずに部屋を借りることになるのだ。
「女性の足でも駅から10分はかかりませんし、商店街が続いてますからちょっとした買い物も便利ですよ。それに日当たりもいいんです。今日はあいにくの雨ですけど」
不動産屋の言葉を背中で聞きながら女は窓辺に立って広いベランダを眺めた。
「これだけ広いベランダなら洗濯物干すのに便利ね」
次にキッチン、バスルーム、トイレを見て回った女はロフトへの階段を上がった。
「あら、ロフト結構広いのね。使い勝手よさそうでいいわ」
上から部屋全体を見回し満足そうにうなずいてから階段を下りる女。その階段の途中でふと足を止め、うっすらと残っている壁の傷を指でなぞった。なんだろう?と首をかしげたがそれ以上のリアクションは見せなかった。
この女はまだ知らないみたいだ。この部屋で起きた出来事を。
客は不動産屋の隣に並び、この部屋に決めたことを告げる。
不動産屋は満面の営業スマイルを向け、客もわざとらしいほど満足げに笑みを返す。新しい同居人が決まった。
ちょっと年上すぎるけど、まあ一人よりはいいか・・
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