二人目の同居人

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 引っ越し業者を引き連れて、段ボールやら家具やらを運び込んだ新しい住人の名は橋口とし子、歳は51歳、独身。建設会社の経理をもう30年もやっているという、超を2くらいつけたくなるベテラン事務員だ。なのでまるで自分の部下に命令するかのように引っ越しスタッフに上からの物言いで指示を出す。引っ越しスタッフは言われたまま従い、てきぱきと仕事をこなすと最後の挨拶をきちんとして部屋を出た。きっと愚痴るなと面白がった俺は彼らの後をつけてみる。すると「うっせえババアだったな」「どこにでもいるんだよ、ああいう上からな奴」などと吐き捨てていた。「うちにもいますもんね」と3人目の言葉がエレベーター内に広がると一斉に声を上げて笑っていた。  部屋に戻るととし子は荷解きは後にして、唯一出したコーヒーメーカーでコーヒーを淹れていた。コポコポと湯が沸きコーヒーがしたたり落ちると、 香ばしい匂いが広がった。 「あ~疲れたぁ!あっと、マグカップ出さなきゃ」 コーヒーを淹れたわいいが肝心のコップがない。段ボールに書かれた文字を頼りに的確に目的の箱を開け、新聞紙をガサガサいわせながらマグカップを取り出した。 箱には何が入っているのか細かく書かれていて、この女の几帳面さがありありとわかった。 ・・あ、それ、イギリス製のブランド物じゃん・・ マグカップだけじゃない。バッグはイタリアの超高級品。けっこう金持ってそうだ。
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