癒しの手

腕のいいマッサージ師です

　まあ、こういう金に物を言わせる雰囲気の客はごくわずかで、
大半の客たちは疲れた体で心の癒しを求めてやって来る。
どうやったらこんなに肩がガチガチになるんだよってくらい体が固まってる人や、ただ黙ってぐったりと施術用ベッドに体をあずけている人、
とにかくしゃべりたおしたくてフットマッサージをうける人など、
人によって差はあるがみなストレスを抱えて疲弊しているから
ここへ逃げ込んでくるのだ。
そういう、助けを求める人たちに少しでも和らいでもらいたくて、
俺は勉強を重ね日々客の体をほぐし、施術後に見せてくれる
平たくなった柔らかい笑顔が見られることを俺の喜びとしていたのだ。

　頑張って働いた。将来必ず自分の店を出すぞと目標を持ち、
着々と腕を上げ、せっせと貯金もしていた。
マッサージ師になって７年。
自分一人でやるくらいの小さな店なら出せるくらいまで金もたまったが、
その目標の達成を３０歳の節目までとっておくことにし、
かわりにちょっと贅沢な賃貸マンションに住み替えることにした。