腕のいいマッサージ師です

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 翌週の休みは2連休。最初の休みに電気の傘、いやランプシェードを 付け替え、翌日に雰囲気の変わった部屋に兄貴を招待することにしていた。 兄貴は引っ越しを手伝ってくれた時に初めてこの部屋を見たのだが、 すげぇ、おしゃれだ、羨ましいを連発するほど気に入ったようだった。 「おまえ、頑張ったもんな。今のお前にふさわしいんじゃないか?  勉強できなくたってちゃんと頑張ればこんないい部屋に住めるんだもんな」 「おいおい、勉強できないってのは余計なんじゃないか?」 大きな会社に勤める兄貴と腕一本でここまでこれた俺。そんな正反対さが逆に互いを引きあっている、良い兄弟だと心の底から思っている。 その兄に一番最初に模様替えした部屋を見せたいのだ。 「よっしゃ、じゃあさっそく取り換えるか」 2メートルほどの高さがある脚立を電気の下に立てる。 この脚立は大工をやってる昔の仲間に貸してもらった。 部屋のど真ん中なのでいざという時につかまれるところはないから、 ゆっくりと、慎重に脚立を上る。まずは今ついているランプシェードを外す。片手がふさがれた状態だからより慎重に脚立を降りる。 よし、ここまでは順調。次は新しく付けるやつを片手に脚立を上る。 さあ、これをつければ・・・ 「え・・うわぁっ!」 体が斜めに傾げた。脚立も斜めに傾げた。 そのまま、てっぺんに乗っている体の重みは重力に逆らわずに落ちていく。 ふわっとして、スローモーションのように壁が上から下へ流れていくのが 見えていた。そして途中で瞳の中の映像は消えた。 もう・・俺の目には何も見えなくなり、何も感じなくなり、 すべてが止まった。
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