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腕のいいマッサージ師です
「あ~死ぬほど肩が痛い!」
この女、また肩をさすりながら体を前後に揺さぶったり
うずくまったりしている。
死ぬほど痛いってセリフも聞き飽きた。
だいたい、死ぬほどってどれだけの痛みなのか知ってるのかよ?
死んだことないくせに。
だけど・・
そんなに痛いのか?そんなに力入れていないんだけど。
かつての常連客達はみんな、俺の施術を気に入ってくれていた。
ここっていうツボにはグッと指が入り、背骨に沿って降りていく手のひらは、程よい強さで腰まで滑る。
真樹生(まきお)先生サイコー!って、女性客だけでなく男性客も
俺のテクニックを気に入ってくれていたんだぜ。
なのに、この女も、この女の前にこの部屋に住んでいたおばはんも、
その前の住民で俺にとって最初の同居人であるホスト野郎も
俺のせっかくのサービスに苦痛の表情しか見せなかった。
「やっぱあれか、生身の体と生身じゃない手だから
力加減がいまいちわかってないのかなぁ」
感触が・・違うもんな。
あの頃と今では俺の手に伝わってくる筋肉や骨の硬さが違うんだ。
向こうが透けて見える俺の手。
こんなんじゃあ指先に力が入っていないんじゃないか、と
力み過ぎてしまう。でも力が入っていないどころか、
生身達には十分すぎてしまったようだ。
「それとも腕が鈍ったのか?」
再び声に出して呟く。まだまだこの仕事を全うしたい俺は、
霊になってもまだなお高みを目指して腕を磨こうと頑張っている。
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