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友達の佑実はジャニーズにどっぷりはまっていて、マックのアルバイト代をコンサートとグッズ購入につぎ込み、ことあるごとに推しメンと本気で結婚したいと言っている。私は授業と授業の合間に繰り返される「推しのどこがカッコいいか」「どういうところに惹かれるのか」という彼女の熱弁を、一応親身になって聞くふりをしながら半ばあきれ、少し馬鹿にさえしていた。
「土曜はやっと公開録音イベントだよー!今からすごい緊張する!」
「佑実、ずーっと言ってたもんね。めっちゃ目立つようにしていきなね?」
「うん。そうなんだけど、舜くんはこないだツイッターでシックな感じが好きって言ってたからなぁ。あ、それはインテリアのことなんだけどね?でも舜くんの好みのタイプの女の子ってそういうインテリアが似合う、あんまりでしゃばらない女の子なんじゃないかって」
今日はたまたま校門の少し前で佑実に会ったので、朝から洗礼を受けることになった。佑実はいくら考えても仕方がないことを私に話す。本当に付き合えると思ってるの?なんて、空気の読めない私でもさすがに聞いてはいけないと分かっているけれど、それでも20回に1回くらいは聞きたくなる。もし「岡田舜、新進気鋭女優と熱愛!」というスクープが出たら、佑実はどうなっちゃうんだろう。その時の佑実をちょっと見てみたいと思う私は意地悪だろうか。
「美春おはよー!」
背後から、私と同じ美術部の恵梨が声をかけた。私たち三人は一年生の時同じクラスで、二年の今は恵梨だけが別のクラスだ。
「おはよ。恵梨、今日は部活来る?」
「美春、顔色良くない?なんかいいことあった?」と恵梨は言う。この子には敵わない。私は今朝の電車で、お気に入りのアカウントからリプをもらって密かに舞い上がっていたのだから。
本当は、佑実のことをとてもじゃないけど笑えない。私は今、顔も、もしかしたら性別すら正確に知らない人に夢中なのだから。
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