私の愛しいヲチくん

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 ある日、彼が珍しく写真付きツイートをしていた。マックでの勉強風景で、問題集の隣に大きなシェイクがあった。つい拡大したのがいけなかった。テーブルの向こう側にもう一つ、シェイクの底のようなものが見えた。赤いペンケースの端も写り込んでいた。  私はその晩なかなか眠れなかった。翌朝、同じバスケ部の「連れ」と一緒だったと知ってホッとし、でもその「連れ」が男か女かは分からないじゃない、とやっぱりモヤモヤした。そのせいで、今日は当たる番だからと予習しておいた英語のノートを家に忘れて、先生に怒られた。佑実の話を上の空で聞いているのがバレて、嫌な顔をされた。  私はバカだ。もし彼女が居なくても、彼と付き合えるはずないのに。彼は私に彼氏がいるかどうか考えたことすらないだろうに。  そもそも、会ったことないのに。  私は【前のテストがヤバかったし、少し早いけどしばらくツイッターから離れます】とツイートして、思いきってアプリを消した。通学の電車では、スマホの代わりに古文や英語の単語帳を眺めた。最初の数日は彼のことが気になって仕方がなかったけど、気持ちの浮き沈みが減って、頭も軽くなった気がする。ある日、いつもより早い電車に乗って、教室で単語帳の続きをめくっていると、クラスメイトの平沢くんが入ってきた。 「おはよー、もう試験勉強?」 「うん、今回範囲広いし、最近勉強できてないから」 「へー。田中さんにしては珍しくない?」 「ええーそう?そりゃ真面目ではないけど……」 「いっつもスマホ見てるから。だけどゲーマーじゃなさそうだし、他校に彼氏でもいんのかなーって」 「はは、他校ね……。いないいない」  平沢くんこそ、こんな話をいちクラスメイトにするような人だったっけ、と思ったけれど言えなかった。まさか私に気でもあるの?いやいや、自意識過剰もいい加減にしなよ。でも近くで見る平沢くんは目の切れ込みが鋭い奥二重で、ヒゲの少ない頬はつるんとして声が低くて、要は結構好みのタイプだった。私は本当に失礼なことを考える。平沢くんのことを好きになっていればよかったのかも、と。  およそ二週間後、私がツイッターに戻ると彼のアカウントは休止していた。そして何日経っても、何度ホームに行っても再読み込みしても、彼の新しい投稿はなかった。
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