うさぎとカメとステラ

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 さて、村の名前をかけた競技はもちろん、かけくらべです。  『いくらなんでも、うさぎはもう昼寝なんかしないだろう。かけっこなら、うさぎが勝つに決まっている』とだれもが思うかもしれません。しかし前回までの結果は交互に勝ったり負けたり、ちょうど五勝五敗。  互角の勝負の秘密は、かけっこのコースがとても長い距離だということと、選手は子ガメと子うさぎと決まっていることです。  子供のカメとうさぎにとっては、かけっこのコースはマラソンをするほどの長さ。一気に走れる距離ではありません。疲れて休憩するうちにウトウトしてしてしまったり、跳ねるバッタを見つけて遊んでしまったり、両親が恋しくなって泣き出したり……。  勝負はやってみなければわからないようにうまく出来ていました。  そこで選手に選ばれた子うさぎと子ガメの親たちがしなければならない一番大事な準備は、勝たないといけないと教えることなのでした。うさぎの子もカメの子も、真剣勝負なんかしたことはないのですから。  かけくらべの前夜、選手にえらばれた子ウサギの家では、お父さんが熱心に言い聞かせていました。  「いいか、ヒメ。『うさぎカメ村』にするために、絶対に勝つんだ! 休まずに走れば勝てる!」  「休まずに走れる距離ではありませんよ」お母さんうさぎがお父さんをたしなめました。  「そうだったな。じゃあ休んでもいいけれど、寝てはいけないよ。……ヒメ、聞いているのかい?」  「ううん、聞いていなかった。今日、カメのイチ君とケンカしちゃったことが、勝負よりも気になって」ヒメは正直に言いました。  お父さんとお母さんは困って顔を見合わせました。  「ヒメ、いつも一緒で仲良しのイチ君とケンカしちゃったのは気になるだろうけれど、うさぎ代表に選ばれたからには、がんばらないと」  「他の子にやってもらえない? 私、それどころじゃないの」  はあ、とヒメはため息をつきました。(イチ君が謝ってくれたらすぐに許して、仲直りできるのになあ!)  おだやかなイチ君とどうしてケンカしてしまったのか、ヒメにはいくら考えても、その理由が思い出せません。なぜならケンカのはじまりはほんのささいなことで、今となってはどうでもいいようなことだったのですから。
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