うさぎとカメとステラ

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 一方、カメ代表に選ばれたイチの家でもお父さんが熱く語り聞かせていました。  「『カメうさぎ村』になるよう、一生懸命歩いて歩いて歩きまくるんだ!」  イチはお父さんに気を使って、何も言わずに暗い顔でうなずきました。しかし心の中では(うさぎのヒメちゃんとケンカしちゃって、お話することも出来ない。僕はかけっこに負けてもいいから、仲直りしたいよ)と思っていました。  さて、レースの当日。スタートラインについたヒメとイチ。周りからは、ドンドン、パフパフ。ヒューヒュー! という音が響いています。村中のうさぎとカメが集まって、思い思いに木切れを叩いたり、ぷうっと膨らんだホタルブクロをつぶしたり、口笛を吹いたりしているのです。  スタートラインに並んだヒメとイチが、謝ろうかどうしようか、それともケンカの理由はなんだったのか相手に聞こうか、と迷っているうちに、スタートの合図が響きました。  「ピィー!」  この日のために、隣のインコ村から来てくれたピー子の鳴き声です。  ヒメはピョーンと飛び出しました。そしてそのままピョンピョンと駆けていきます。あっという間にカメのイチを引き離していくヒメに、親うさぎたちは拍手喝さい。  もちろんイチもスタートしました。マイペースでゆっくりと。着実に一歩一歩。「イッチ、ニ、イッチ、ニ」名前のイチと数字のイチをかけた掛け声です。カメ達の大声援は、粘り強くいつまでも続きます。  インコのピー子が羽づくろいしてから礼儀正しく挨拶をすませ、羽ばたいて家に帰ってしまっても、カメ達の声援はイチの姿が丘の向こうへ見えなくなるまで止みませんでした。  ぴょんぴょん跳んでだいぶ先に進んだヒメは、「ここまでくれば、一安心」と、クスクスと笑いました。「さーて、それじゃあ、ひとやすみひとやすみ」ヒメは気持ちのいい木陰を見つけて、寝てしまいました。
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