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「ステラちゃん、それでご主人はどこなの?」ヒメが聞きました。うさぎカメ村(前回の競争ではうさぎが勝ちました)には人間はいないのです。
「えっと。はぐれちゃったみたい……」
「迷子なの?」
「ええ、まあ、そういうことになるかもね」
ステラは足をぺろぺろ舐めました。ご主人様がいたなら、腕に抱きかかえて家に連れて帰ってくれたでしょう。そう思うと急にステラはご主人が恋しくなりました。
「あっ、泣かないで、ステラちゃん!」
ヒメがかけよりました。気が付けば、茶色いまんまるなステラの目から、ポロっと涙がこぼれていました。棘が刺さっても泣かなかったけれど、ご主人がいないと気が付いてしまうと、もう我慢できなかったのです。
「僕の背中に乗りなよ」イチが言いました。「僕はまだ子供だけど、ステラちゃんが乗るくらいは大丈夫。ちょっと狭いかもしれないけどね」
ステラはイチの背中に乗せてもらうことにしました。
「あなたの鼻なら、ご主人がどこにいるのか匂いでわかるんじゃない?」ヒメが聞きました。
「それが……。さっき、黄色い花の匂いを嗅いだら、とっても香りが強くて、鼻がきかなくなっちゃったの」
「どこから来たの? 来た道を戻っていけばいいんじゃない?」今度はイチが聞きました。
「うーん。私、どこから来たのかな?」
ステラは首を傾けて、痛くない方の後ろ足で耳をちょっとかきました。
うさぎカメ村には人間の村とは違う草花がいっぱい生えています。物珍しくなって、あちこち見回しながら歩いていたら、いつの間にかご主人とはぐれていたのでした。
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