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しばらくすると、ようやくカメのイチがやって来ました。イチはかけっこ勝負に負けて仲直りしようと思っていたのに、ヒメが寝てしまっていては計画がだいなしです。
「ヒメちゃん。まだお昼寝するには早いよ。さあ起きて。先はまだ長いんだから」
ところがヒメは起きません。ふわふわの耳も力なく垂れ下がっています。
「変だなぁ。起きてー!」耳元で大きな声で呼んでも、体を揺すっても起きる気配はありません。
「こんにちは。何しているの?」
子犬がやって来て聞きました。体は白くて、先っぽがおじぎしている耳と目の周りだけ茶色の毛です。
「ヒメちゃんを起こしているんだ」
「なぜ?」
「今、かけっこの途中なんだよ」
「そうなの? 誰と?」
「僕と」
「起こさないで進んだら? 先にゴールしたらあなたの勝ちじゃない! 物語と同じよ」子犬はキチンとおすわりして、小首をかしげました。「私も一緒に行ってあげようか?」
「でも友達なんだ」
「ふーん。じゃあ私が起こしてあげる!」
子犬は、黒くてピカピカの鼻でヒメをくすぐりました。ヒメはぎゅーっと目をつぶって全身を震わせて……、寝たふりをしています。
そこへ家に帰る途中のインコのピー子も空を通りかかり、近くの木にとまりました。
「おや? あの子達は、かけっこはどうしたのかな?」と興味津々で耳をすませました。
イラスト:ハナ様
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