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「ところで林さん、あなたがこの事件にこだわる理由は何ですか?同業の誼みと言うか、あなたの真意が知りたい」
徳田は林の目を見て言った。林も徳田を見つめている。
「死んだ二人に共通しているのは天涯孤独だったと言う事。飯場で働いている所を吉崎に進められ戸籍上の親族となり保険加入し半年後に災害に遭っている」
「それだけでは、災害を覆す理由にはならない。保険金詐欺と断定するには災害を覆す証拠が欲しい。何か掴んでいるようですね、それじゃなきゃ私に話を持って来たりしませんよね」
林は笑って手帳を取り出した。
「鶴見の災害時に該者と一緒に作業していた男が大津の災害時にも一緒に作業していたとしたらどう思います」
徳田は身を乗り出した。
「何かそれらしい情報が?」
「佐山義太郎、これが鶴見の現場で事情聴取された男です。丸山義太郎、これが大津で事情聴取された男の名前です。両災害の時間差は二週間です。義太郎と言う名前がそうそうあるとは思えません。同一人物であると考えています」
確かに多い名前ではない。しかし偶然の可能性もゼロではない。
「その義太郎さんは現在どこに?」
「『人捜しなら都橋』と徳田所長の出番じゃないですか」
「林さん、私の質問に答えていない。あなたがこの事件を探る本当の理由を知りたいとさっき訊いたが」
林はブランデーを舐めた。
「どうしてそういうことをするのか知りたい。二人共弱者、仕掛けた方はそんなことをしなくても金も力もある。なのにどうして人を騙し殺すのか、それが知りたい。そしてもし災害に隠した殺人ならそれをこのまま野放しにはしたくない」
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