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「熱が入っているね。本番が近いのかな?」
ファンなら来月からの公演予定を知らないわけがない。この男は何者だろう。
「はい、端役ですが台詞もあります。それでどういったご用件でしょうか?」
ファンじゃないのがバレたようだ。徳田は中村を外に誘った。ラークを差し出すと断った。
「店で薦められれば咥えますが煙を吐き出すだけです。酒もあまりやりません。嫌いと言うより生活に余裕がなくて覚えなかったんです」
徳田は火を点けて話し出した。
「実はね、君とお付き合いしている大繩さんのことで話があるんだ」
「なんかそんな気がしました」
「そう、それなら話が早い。お付き合いを止めて欲しい。欲しいと言うより止めてくれないか」
中村はプランタンに腰を下ろした。
「それは大縄さんの申し出でしょうか?それならそうします」
「大繩さんはあなたと別れられない。だからあなたが身を隠して欲しい。連絡を絶って欲しいんだ」
「でも彼女は私のアパートも新宿のホストクラブも知っています。電話に出なくてもアパートや店に尋ねて来ます」
「アパートは稽古が終わったら引き払いなさい。ホストクラブは止めるか他の店に移るんだな」
徳田は命令口調に切り替えた。
「失礼ですけどあなたに何の権限があって僕に命令するんですか。おかしいじゃないですかアパート移れとか店辞めろとか」
中村はプランタンから立ち上がり唇を尖らせて言った。さすが役者の卵、声が大きい。
「そうしないと君の夢である役者を諦めてもらうようになるからだ」
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