76人が本棚に入れています
本棚に追加
「それってどういうことですか?」
「うん、一生ホラーの怪人役なら素顔で演じられるようになるってことさ。オペラ座の怪人役なら覿面だ。大繩夫人も自然と去って行く」
「僕が暴力を受けると言うことですか?」
「私の言うことを聞かないとそういうことになるかもしれない」
「なるかもしれないと言うことはならないかもしれない?」
「君は勘違いしている。よくてホラー顔で最悪殺されて埋められるってことだ」
中村は言葉に詰まった。徳田が畳み込む。
「君は大縄夫人をどう思う?」
「どうとはどういうことです」
「愛しているのか金目当てなのかと言うことだ」
中村は下を向いて笑った。
「彼女もうじき五十のばあさんですよ。彼女は僕のために金を出す。僕はその金を貰って役者に打ち込める、そんな関係ですよ、それをあのばあさんも望んでる」
徳田はずっとテープを回していた。
「そう夫人には伝えよう。もし君が私の言う事を聞くのならアパートの入居に掛かる金は出して上げよう。私はこれから君のアパートに行き君に話したことと同じ内容の話を夫人にする。夫人は分かっている、私の話を聞かなければどうなるか」
徳田は中村の電話番号をメモした。
「明日の朝電話する。私じゃない。もう少し乱暴な話し方をする男からだ。口座番号を教えなさい。電信で振り込んでくれる。いいね、君のためだ、いつかマクベスでもやる時が来れば教えてくれ」
最初のコメントを投稿しよう!