都橋探偵事情『座視』

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「それってどういうことですか?」 「うん、一生ホラーの怪人役なら素顔で演じられるようになるってことさ。オペラ座の怪人役なら覿面だ。大繩夫人も自然と去って行く」 「僕が暴力を受けると言うことですか?」 「私の言うことを聞かないとそういうことになるかもしれない」 「なるかもしれないと言うことはならないかもしれない?」 「君は勘違いしている。よくてホラー顔で最悪殺されて埋められるってことだ」  中村は言葉に詰まった。徳田が畳み込む。 「君は大縄夫人をどう思う?」 「どうとはどういうことです」 「愛しているのか金目当てなのかと言うことだ」  中村は下を向いて笑った。 「彼女もうじき五十のばあさんですよ。彼女は僕のために金を出す。僕はその金を貰って役者に打ち込める、そんな関係ですよ、それをあのばあさんも望んでる」  徳田はずっとテープを回していた。 「そう夫人には伝えよう。もし君が私の言う事を聞くのならアパートの入居に掛かる金は出して上げよう。私はこれから君のアパートに行き君に話したことと同じ内容の話を夫人にする。夫人は分かっている、私の話を聞かなければどうなるか」  徳田は中村の電話番号をメモした。 「明日の朝電話する。私じゃない。もう少し乱暴な話し方をする男からだ。口座番号を教えなさい。電信で振り込んでくれる。いいね、君のためだ、いつかマクベスでもやる時が来れば教えてくれ」
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