都橋探偵事情『座視』

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「保谷野さんは出来た方だ。あなたのことを心配して会長に知れぬように気遣い私に依頼した。彼は何事もなかったようにあなたを迎えてくれるでしょう」  夫人は化粧を直して着替えた。徳田と共にアパートを出た。鍵を掛け赤いちっちゃなポストに落とした。カシャと言う音が女の欲を断ち切った。  横浜西口高岡屋百貨店の八階で横浜名産展が開催されている。そこに出店している井土ヶ谷の和菓子店ブース前にカメラマン風の男がいる。茶と臙脂のコンビのハンチングを被りバギートップを履いて大きなカメラを首からぶら下げて商品を撮影している。この店は夫婦で和菓子を販売している。実はこの夫人が依頼人である。都橋興信所の持ち案件を早く片付けるために林義男は動いていた。商品を撮りながら夫を撮影していた。昼になり夫が動き出した。林は尾行する。夫人は18:00閉店までブースを離れられない。夫は野田澄夫、夫人はメイ子。夫は和菓子屋に婿入りしたのが二十年前で、当初から女遊びをしている。しかし今回は単なる浮気ではなく、夫人を追い出そうと企んでいる。既に創業者の両親は他界し、子供はいない。夫が浮気相手の女と夫人を追い出しに掛かっている実態を明らかにして離婚したいと考えている。その証拠があれば裁判になろうと有利に働くその証拠が欲しいとの依頼である。野田は駐車場に行く。ナンバーを控えて自分の車に戻る。駐車場出口で待ち伏せる。林の愛車ブルーのフォルクスワーゲン。追跡する。オープンしたばかりのハマボールの駐車場に入った。林は車内で帽子を外してブレザーからスイングトップに着替えた。野田は若い女と手を繋いでレーンに向かう。予め予約しておいたのだろう。はしゃぎながら二ゲームをして車に戻る。横浜新道に入り戸塚で下りて今井町の大きなモーテルにチェックインした。林も駐車場に入る。
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