都橋探偵事情『座視』

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「ここで待ち合わせなんだ。先にチャックインしているからよし子と言う女が訪ねて来たら通して欲しい。それと今チャックインしたブルーメタリックのコロナマークⅡの二人と一緒なんだ。隣にして欲しいんだが。まあ、そういう関係」  林は笑って受付の男に千円のチップを渡した。二時間の休憩でチェックインした。部屋に入ると壁を叩き浮いたコンクリート部に盗聴器を取り付けた。ベランダは室外機置場である。窓は小さいが外には出られる。下は横浜新道である。通行中のドライバーに見られるかもしれないが通報されることはないだろう。まだベッドインはしていないだろう。林はマルボロを咥えた。部屋の構造を頭に入れる。隣も同じ構造に違いない。ベッドからドア部は死角である。侵入しても気付かれることはない。合鍵の束を出した。部屋から出て廊下を窺い合鍵を差し込んだ。十本目で当たった。十五分すると盗聴器に喘ぎ声が入る。林はすかさず廊下に出て鍵を差し込んだ。声の様子からしても鍵音に気付くことはないだろう。部屋に入ると天井まで抜けそうな喘ぎである。手鏡でベッドを探ると男が下で女が跨いでいる。男の顔は特定出来る。鏡を小型カメラに持ち替えて同じ位置でシャッターを切る。連写する。部屋を出る。映りは現像して見なければ分からないが三十枚のうちの数枚は男も女も特定出来るだろう。一時間が経った。ノックされる。受付の男だ。 「あの、まだおいでになりませんが私は二時で交代となりますが、後続の者に引き継いでおきましょうか」 「いや、いいんだ。騙したつもりが騙されたってこともある。勝手に帰るから引き継ぎは要らない」  隣の二人は二時間たっぷり汗を流したようだ。林は時間前に愛車に戻りマークⅡの対面に回した。ツーショットをしっかり写して更に尾行した。井土ヶ谷の店に立ち寄った。林は店に入る。若い女が店内にいる。 「どれもこれも美味そう、おまけに売り子が飛び切りの美人じゃ買わないわけにはいかないな」
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