都橋探偵事情『座視』

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 プレーヤーは全てホールアウトし、上がった順にパーティー会場の伊勢佐木町に向かっている。最終組には吉崎組会長の吉崎と県会議員の馬淵で、プレー後の湯に浸かっていた。湯は貸切で馬淵の秘書と吉崎の連れが二人、脱衣場で待機している。 「先生、また腕を上げましたね。次はハンデいただかないと」  吉崎が馬淵を煽てる。馬淵は還暦を過ぎているがゴルフ歴は経った二年である。実際には百三十以上叩いているが、スコアカードには八十台前半、時にはシングルスコアもある。スコアは秘書が付けている。吉崎意外とプレーをしたことがないしこの先も吉崎以外とはしない。吉崎と馬淵の関係は業界では特に異質な関係ではない。県内の公共事業や独立法人、民間大手の土木や建築工事を吉崎に受注させるよう圧力を掛ける。その見返りを吉崎から受け取る。至ってシンプルな談合及び贈収賄関係である。 「吉崎君、災害が続いているね、あまり続くと地下鉄の上り延長工事の受注が難しくなるよ」 「ありがとうございます。先生には色々気を使っていただきまして。次回の参議院、是非お願いしますよ。資金繰りなら任せてください」  吉崎の煽てだけでもなく馬淵も色気を出していた。 「新山さんとはあまり波風を立てんようにしなさい。勢力が衰えたとはいえ、これまで寿町を仕切って来た実績がある。我が国の高度成長を末端で支えた。しかしもう彼の価値観ではこの業界で生き残れないだろう。君が急かなくても何れ衰退し、君の天下となる。それまで問題を起こさずに願いたい」  新山とは新山興行で、寿町では最大の作業員を動かしていた。しかし吉崎が馬淵とあくどく釣るんで勢力を伸ばしている中で小競り合いが生じている。二日前には組員同士の諍いで新山側の二人が大怪我をし警察沙汰になっている。
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