都橋探偵事情『座視』

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徳田はコートのポケットにオメガの腕時計を確認した。ドアを引くとナットキングコールのナンバー『モナ・リザ』が演奏されている。奏でているのは若い女である。どことなく林に似ている。バーテンがボックス席を勧めたが道子の希望でカウンターに座った。年配で小柄なバーテンはグラスを磨きながら会釈した。 「いらっしゃいませ」  徳田に声を掛けた。 「オーナーはいますか?」 「三十分ほどで参ります。オーナーのお知合いですか?」 「何と言うか、少し難しい関係と言うか」  徳田が口を濁すとバーテンは頷いた。 「私にチャイナブルーお願いします」  バーテンは大きく頷いて徳田を見た。 「私は」  徳田は考えた。そうだ、林との約束。 「ヘネシーパラディアンぺリアル」  バーテンは一瞬目を丸くしたが頷いた。いくらするだろうか、懐は寂しい。道子に借りておこう。 「チャイナ、何とか、どこでそんなカクテルを?」  道子は笑った。 「あなたが留守の時貞淑な妻だと思っていたの?」 「思ってた。君がいるから安心して仕事が出来る」  道子はからかうつもりだったが徳田の真剣な答えに恐縮した。 「実はね、あなたの帰りを事務所の前で待っていたの。そしたら日出子さんが声掛けてくれて、バーテンさんが薦めてくれたのがチャイナブルー。おいしいの」
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