都橋探偵事情『座視』

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 道子は正直に話した。徳田は息を吐いて「安心した」と言った。子供なんだ、この男は子供と同じで私の存在は母なのかもしれない。危険な行動も、実は潜り込める私がいるから飛び込んでいけるのかもしれない。道子は複雑な思いになった。  徳田の前に厚いグラスが運ばれた。パラディアンぺリアルが注がれる。同時に大きな氷が入ったミネラルウォーターも置かれた。「お待ちを」と道子に微笑んでシェーカーを振る。カクテルグラスに透明なブルーの液体が注がれる。「どうぞ」とバーテンの動きが一々気障である。徳田は初めて口にするパラディアンぺリアル。全然違う、いつものXOとはまるで違った。 「飲んでみる?」  道子がカクテルの味見を勧めた。道子の紅が薄っすらとグラスに付いている。徳田は紅に唇を重ねた。ストレートを口にした後なので、ものすごく甘く感じた。 「美味しい、だけど私にはジュースだな」  バーテンも含めて三人で笑った。客が来店。バーテンはカウンターから出た。入り口でコートを脱ぐ大柄な男に寄り話をしている。 「いらっしゃいませ。こんな美人とどこかでお会いしたでしょうか、忘れていたなら男失格よ」  オーナーは道子の隣に座った。冗談を言いながら徳田に会釈した。間違いない、林の父だ。林が齢を重ねるとこうなるだろう。徳田は何故か嬉しかった。嬉しいだけに話が切り出せなかった。徳田は名刺を出すことにした。それで感付いてくれることを期待した。 「私はしがない興信所を開いております」  先ずは自分の名刺を差し出した。 「徳田さんですか、どこかでお会いしたでしょうか?」  オーナーは名刺と徳田を交互に見て言った。  大阪で一泊を考えたが会社に電話を入れたらすぐに戻るように言われ、目を擦りながらもぶっ通しで十八時間運転してきた。
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