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「失礼ですけど野本さん、その目はどうしたんですか、眼帯の周りも腫れていますけど。気になったらごめんなさい」
平野は思い切って尋ねた。野本はゆっくりと眼帯を外して平野の顔に近付けた。
「現場で怪我したんだ、暗い室内を歩いていたら針金が飛び出していてさ、それが目に刺さった」
野本は嘘を吐いた。
「それで労災認定にしてもらいましたか?」
「俺も一応吉崎工業の監督という立場だからさ、公になると後々不味いんだよね」
野本はしつこい平野のにうんざりしながらも嘘を吐き続けた。平野と一緒にいることで探偵が油断する。その隙をついて目潰しを考えていた。金物屋で買ったアイスピック二本。柄の部分を合わせてビニールテープでしっかりと固定してある。ピックの先端を人の目の間隔に広げた。一突きで両目が潰れる。作業ジャンパーの内ポケットに差し込んである。ポケットはピックで穴が開き、柄がすっぽりとポケットに収まっている。
「いえ、労災申請しましょう、これが災害隠しに繋がるんです。下請けが次の受注に影響があるから事故災害を隠す。その構造が無くならない限り労災ゴロみたいな犯罪はなくなりません。探偵さんと今後の打ち合わせをして、野本さんが自首されるときに僕が同行してそのことも警察に報告します。しっかりと傷の手当と共に保険の適用を申請しましょう。失明であれば野本さんの今後の就職にも影響があります。その辺りを保険で補填してもらいましょう」
平野は野本の手を握った。面倒臭い男であると野本は呆れた。タクシー運転手をこの手で絞殺した男に今後も糞もあるわけないだろう。野本は可笑しかった。先ずは復讐だ、目を潰された恨みを晴らす。後は成り行きだ。
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